【わかりやすくイタリア解説】 新型コロナウイルスと経済救済政策:EU南北分裂-EUへの不信感の高まり

世界は今、新型コロナウイルスの感染症に関する話題にあふれていますが、3月初旬から感染が急増しはじめたイタリアはすでに約1か月近くこの問題と戦っていることになります。

すぐにこの影響を受け始めたのは自営業者、パートタイムなどの労働者、季節労働者、臨時労働者などです。働き口を失い食料を買えない人のために、多めに買い物をして必要としている人に分け持ち帰ってもらうという取り組みも各地で見られています。

イタリアの全土封鎖を宣言した政令は#IORESTOACASA 政令 (「ステイ・ホーム」政令)、そして、イタリア経済の救済処置について定めたものは“CURA ITALIA”政令(「イタリア救済」政令)と呼ばれていますが、そのCURA ITALIA政令では、自営業者や対象の労働者などに対して、600ユーロの所得補償が定められたことが発表されていました。

つい先日そのオンライン申請が開始されたのですが、1秒に300件の申請が殺到し、サーバーがダウンする事態になりました。申請の受付が開始された夜中から朝までの間だけで30万人分の申請が受理されたそうです。このように、市民の生活を補償するための政策は欧州の各国がそれぞれ開始しています。

しかし、これから顕著になっていく「コロナ不況」の困難に立ち向かうためには、欧州連合全体で足並みをそろえた大掛かりな経済政策が必要です。欧州の中でも感染拡大が深刻な地域でもある、イタリアやスペイン、フランス、ポルトガルなどをはじめとするいくつかの国は、そのためにEU共同債「コロナ債」の発行を求めています。その一方で、ドイツ、オランダをはじめとする北部の国々はESM(欧州安定メカニズム)による支援策を提案し、いまだに折り合いがついていません。

イタリア側は「ESM(欧州安定メカニズム)についての言及は一切受け入れない」として頑なに拒否しています。コンテ首相は、欧州委員会、理事会、議会、中央銀行(ECB)、ユーログループ(欧州財務相会合)に対して、コロナウイルスによる経済危機に対応するには、これまで通りのやり方では通用しないとして、今週内に新しい「マーシャルプラン」(欧州復興計画)を策定してほしい、という「最後通告」を出しています。

日伊経済連合会 会長
ディサント・ダニエレ

このESM(欧州安定メカニズム)ですが、普段あまり耳にしない言葉なので、どうしてイタリアが拒否しているのかは、少し分かりにくいですよね。

欧州安定メカニズムは、ユーロ圏のいわゆるセーフティーネットのような仕組みで4100億ユーロの融資余力を持っています。しかし、北ヨーロッパ側が今回推奨したように、欧州安定メカニズムによる支援策を利用すると、融資の返済のために国有財産などの売却や税制改革・年金制度改革などを強いられることになります。例えば、2015年にギリシャが債務危機に陥った時、この仕組みが利用されましたが、ギリシャはその返済のために500億ユーロ規模の国有財産を売却しました。

簡単にいうと、EU共同債(コロナ債)の発行は、欧州全体でコロナ不況のための経済政策を打ち出す、ということを意味し、反対に、欧州安定メカニズムの支援を受けることは、EUのセーフティーネットからそれぞれの国が個別に融資を受けることを意味します。後者は極端に言えば北ヨーロッパから「そっちはそっちでやってくれ」と言われたようなものですね。しかし、欧州連合に加盟している限り、各国が勝手に経済政策を策定して単独行動することは許されないのです。そのため、イタリア始め、南欧諸国では、コロナウイルス感染症で世界的な不況が起きようとしている未曾有の危機に一丸となって対策できないのなら、そもそも欧州連合に加盟している意味自体があるのか、という不信感を引き起こし始めています。

EUでは、安定成長協定で、財政赤字とGDPの比率を3%以内におさえましょう、という目標が定められています。コンテ首相は、イタリアの2019年の財政赤字はGDP1.6で終えることができていたので、いざとなれば正当な範囲内で赤字国債を発行することができる、と宣言しています。つまり、首相の「最後通告」は、数日の間にEU共同債の発行の合意が出来なければ、イタリアは単独で赤字国債を発行すると発破をかけているわけです。

コロナウイルスの広まりをきっかけに、欧州議会は南北で分裂し、これまでもたびたび指摘されていた、連帯の欠如が浮き彫りになっています。早急な対策を共同でまとめることができなければ、特に感染拡大が大きい欧州南部の国々を中心に、コロナウイルスの感染拡大が終息したあとに、EU離脱論が叫ばれ始めることになりかねません。

ディサント・ダニエレ