イタリア「日本を新型コロナから立ち上がらせた薬アビガン?」「日本で一般病院で処方開始?」フェイクニュースが拡散

3月21日土曜日頃から、イタリアのSNS界をざわつかせた疑惑のビデオにより、イタリアは数日の間、困惑の渦の中にあった。投稿したのはイタリア人でアニメグッズなどの小売業を営む40代の男性C.A.氏。(ここでは個人の特定による攻撃などを防止するために氏名は非公表で経緯を説明する。)

男性は、仕事のため東京に来ており問題のビデオをライブ配信していた。ビデオは複数回にわたり投稿されているが、いくつかを紹介すると下記の通りだ。

問題のビデオはこう始まる。「みんなに日本でのコロナウイルスの状況を話そう。ここは池袋、後ろにたくさんの人が行き交うのが見えるかな?みんなとても落ち着いている。問題はそれが、”なぜか?”だ。答えは、アビガンだ。」

“L’Avigan è un antinfluenzale fino a poco tempo fa venduto in farmacia: qui hanno scoperto che somministrato ai primi sintomi di coronavirus, accertati con il tampone, blocca il progredire della malattia nel 91% dei casi”. 「アビガンはもともと薬局だけで売られていた抗インフルエンザ薬だ。このところ、テストで陽性が確認されたコロナウイルス患者の初期症状の91%で病気の進行を阻止することが分かった。」

このビデオは男性の意図しないところで、瞬く間に拡散されていき、いくつかのイタリアの新聞社やテレビなどが取材を行い、翌日の3月22日以降、多数掲載された。男性本人は、Facebookアカウント上でCorriere della Sera(イタリア最大の日刊新聞の一つ)のインタビューに応じたとして、掲載された紙面を投稿している。それを見ると、男性の言葉は、下記のように紹介されている。

「来日当初は、東京はローマのように静かだったが最近活気が戻った。なぜなのか気になり、調べたところ、病院で大衆向けにアビガンの処方が始まったからだとわかった。アビガンは、ほんの少し前まで薬局で販売されていたものだったが、検査で陽性と判明している場合のコロナウイルスの初期症状のころに効果があると判明した」と、仕事でよく来日しているという、ローマ出身の薬剤師C.A.氏は述べた。(一部のみ要約し日本語訳)

また、紙面の該当コーナーは次のように締めくくられていた。

「アビガンは富士フィルム富山化学の製品であり、中国での有効性確認の発表後、株価が15.42%上昇した。」

拡散されたビデオや、新聞記事、テレビニュースなどにより、イタリアでは「アビガン祭り」といっても過言ではない現象が起きた。SNS上のほか、チャットアプリでも拡散され、チェーンメール状態になった。イタリアと何らかの形で関わりのある多くの日本人には、イタリアから「アビガンって知ってる?」という連絡が何件も届いた。

日本では、中国で治療効果が確認できたということで新型コロナウイルスの治療に使えるのではないかと期待されている薬の1つの「アビガン」(一般名「ファビピラビル」)として、通常の報道で知っている程度の認知度を持っている人が大半であると思われる。

イタリアでは、この男性の「日本では、新型コロナウイルス患者の91%に有効なアビガンの一般患者向けの処方が広く始まった」というフェイクニュースで騒然となった。おそらく、この数日のニュースのうちのかなりの枠がこのアビガンに関するものであったと思われる。ビデオを見た人は、「そんなすごい薬なら、イタリアでも使えるように、このビデオをシェアして政府に認めてもらおう」という人と、「そんなに大切なニュースがSNSを通して入ってくること自体おかしいのでフェイクニュースだろう」という人に分かれていたようだ。

しかし、すでに数千人の感染者が確認され深刻な状況だった、タリア北部の複数の州知事が、「そんな薬であればうちの州で試験投与をしたい」という要請を国に出したため、なんと実際に3月24日からイタリアの一部地域でアビガンの臨床試験がはじまった。21日土曜日頃からの拡散、23日月曜日に翌24日から臨床試験を始めると、実に数日の間の決定であった。

日伊経済連合会では、製造元へコンタクトを取り、男性がビデオで語っていることは、下記の通りフェイクニュースであることを確認した。

● アビガンは、過去にも現在にも販売された事実はない。一般向けに処方されているという事実もない。
● アビガンはもともと、「他の薬剤が効かない、新種のインフルエンザなどが発生した場合に、他の抗インフルエンザ薬に効果がないと判明した場合国の判断でのみ使用が検討されるという」特殊な用途の備蓄薬であり、病院でも処方ができない薬である。
● 新型コロナウイルス感染症の治療のため、国の管理と主導のもと一部施設のみで実験的使用が始まったが、現時点で国内ではまだ新型コロナウイルスに効くというデータの公表までは至っていない

アビガンのイタリアでの臨床試験開始は、遅かれ早かれ実施されていたと思われるが、今回の騒動で人々は長い時間をフェイクニュースについての議論のために費やすことになった。該当の男性は、善意のつもりでビデオを投稿したのかもしれないが、結果的に多くの人を巻き込み惑わせた。日本でも、「お湯が新型コロナウイルスに効く」というフェイクニュースがチェーンメールになったことがあった。こんなときだからこそ、情報の正確性について、一人一人が慎重に判断したり、情報源を確かめたりするができるよう気を付けたい。

R.D.